このcd-romについて

このcd-romは、批評家の東浩紀が主宰する自主出版・流通サークル「波状言論」が発行するマルチメディア著作物です。このcd-romには、以下のコンテンツが収められています。

波状言論 創刊準備号-終刊号

『波状言論』は、2003年12月から2005年1月まで、サークル「波状言論」(創刊当初のサークル名は「hirokiazuma.com」)が発行したメールマガジンです。

『波状言論』は、2003年8月に企画が立ち上がり、2003年12月に創刊準備号を無料で公開しました。その後、インターネットで購読者を募り、2004年1月から有料配信を開始。2005年1月まで、毎月15日と30日に合計22号(8月と11月は休刊)を有料で配信して終刊しました。

『波状言論』は、東浩紀を責任編集として、ほかは平均年齢20代前半のきわめて若いスタッフで作られました。テープ起こし、構成から著者校正まで、すべてをメールと事務所のPCでこなし、撮影はデジカメで、配信はPCの標準的なメーラーを駆使して行いました。『波状言論』は、徹底した低予算と身軽な組織で、新しい流通を模索して作られた批評誌です。

その試みは多くの執筆者の共感を呼び、『波状言論』では、わずか1年のあいだに、西尾維新と上遠野浩平にライトノベルの現在を、宮台真司と北田暁大と大澤真幸にリベラリズムの現在を、近藤淳也にブログの現在を、切込隊長にテキストサイトの現在を、森川嘉一郎にビエンナーレ進出の意図を、椹木野衣と八谷和彦にアートと反戦運動の現在を、阿部和重と法月綸太郎と神林長平に文学の現在を、新海誠と西島大介にセカイ系の現在を、白田秀彰と真紀奈17歳に知的財産権のフロンティアを、鈴木謙介にネットとニートのリアリティを、伊藤剛にマンガ批評の未来を、アクチュアルな問題意識のもとで語って/書いていただくことができました。このラインナップは、ゼロ年代の日本の文化状況を語るうえで欠かせない人々ばかりだと確信しています。

波状言論の量的推移編集部では、誌面の制約が小さいメールマガジンとしての特性を活かし、みなさんの語りや原稿に対しては、語りたいだけ語り、書けるだけ書いていただく方針で臨みました。その結果、『波状言論』の毎号の文字量は、月2回刊行の批評誌としては怪物的に多くなりました。その量は、平均して80000字、実に新書1冊分にのぼります(左図参照)。

以上のすべてが、このcd-romには収められています。その量はあまりにも膨大で、とてもひとつひとつ紹介することはできません。「波状言論(テキスト)」のページには、リンクとともに、各号の簡単な目次が記してあります。興味を惹かれた号から、ご自由に読まれることをお勧めいたします。『波状言論』の広大な世界を読み尽くすには、かなりの時間がかかることと思います。ごゆっくりお楽しみください。

なお、『波状言論』各号のデータは、「波状言論(テキスト)」と「波状言論(画像)」の2つのページに分かれて格納されています。それぞれの閲覧方法について、詳しくは「注意事項」のページをご覧ください。

コピー誌

このcd-romには、特別付録として、2003年から2004年にかけて、「hirokiazuma.com」と「波状言論」が発行した3冊のコピー誌のPDFデータが収められています。

1冊目の「DVD-1 first sale appendix」は、dvd-rom『『動物化するポストモダン』とその後』の会場販売特典として、2003年8月17日にコミックマーケット64で配布されました。

表紙を入れて16ページのコンパクトなもので、前半は書き下ろしの短いエッセイ、後半は「メタリアル・メモランダム」と題して、ページ上部に1996年に『カイエ・ドゥ・シネマ・ジャポン』誌に寄せた単行本未収録の押井守論を再録し、下部に2003年時点でのコメンタリーを記すという実験的なテクストを収録しました。後者はおそらく、東浩紀が「メタリアル」という言葉を用いた最初の原稿です。

2冊目の「hajougenron printed extra first」は、『波状言論』の創刊を前にした特別増刊号として、2003年12月30日にコミックマーケット65で頒布されました。

40ページ近いボリュームで、前半は、東浩紀と佐藤心が、出会いから『動物化するポストモダン』誕生秘話までを語る、内輪ネタ満載の対談「波状言論 DEATH&REBIRTH」。後半は「メタリアル・メモランダム」第2回。1998年に『InterCommunication』誌に寄せた単行本未収録のP・K・ディック論とそれへのコメンタリー。質量ともに充実していたのですが、サークル運営の失敗から印刷が間に合わず、会場製本という最悪の事態に。当日は80部弱しか頒布できず、しかもその頒布分はカッターで裁断されたコピー紙がホッチキス止めされて4分冊になっていたという、ある意味伝説のコピー誌です。

3冊目の「はかぎくす!!」は、『美少女ゲームの臨界点』の予約および会場販売特典として、2004年8月15日にコミックマーケット66で配布/頒布されました。

『美少女ゲームの臨界点』の副読本として、半ば本気、半ば冗談で作成された大判のコピー誌です。巻頭は、加野瀬未友と更科修一郎を招いて美少女ゲーム運動を振り返るロング・インタビュー。続いて、謎の小説家・夜ノ杜双成による舞城王太郎パスティーシュ「ラブレター・フロム・チェーンソー・マン」と東浩紀が書き殴った謎のライトノベル「萌えと愛と脳内と(Death編)」(イラストは佐藤心)を収録。さらには『新現実』第2号の幻の企画書まで収められており、どこまで真実で、どこまで嘘なのかをきちんと見抜けば、このコピー誌はかなり読み応えがあるはずです。お楽しみください。

コピー誌のデータはPDFファイルで格納されています。PDFの閲覧方法について、詳しくは「注意事項」のページをご覧ください。

特別インタビュー

インタビュー風景このcd-romには、もうひとつ、特別付録として、宣政佑(ソン・ジョンウ)への特別インタビュー「韓国と日本のネットコミュニティ」が収められています。このインタビューは語り下ろしであり、このcd-romが初出です。聞き手は東浩紀と鈴木謙介。インタビューは、2005年2月24日に波状言論編集部で行われました。

宣政佑は、『波状言論』05号(3月A号)から21号(2005年1月A号)まで、全9回にわたって「韓国オタクの現在」と題する長い連載を展開しています。この連載は、「韓国オタク」と題されながらも、韓国サブカルチャー全体の通史になっており、同時にその歴史の紹介を通じて現在の日韓関係にも新たな視点を投じるような、啓蒙的かつ政治的なすぐれたテクストでした。このインタビューは、その連載の補遺として行われたものです。サブカルチャーの具体的な比較からきわめてアクチュアルな日韓比較論へと繋がっていくその展開は、国際関係を扱う新しい語り口の誕生を予感させます。『波状言論』は、ゼロ年代のサブカルチャーをプリズムとして、国外にも目を向けています。

2004年2月14日
2004年2月14日。左から鈴木謙介、東浩紀、北田暁大。事務所近くの中華料理屋「喬家柵」で。北田が掲げているのはPink Floydのアルバム「The Wall」。
2004年4月1日
2004年4月1日。上遠野浩平(左端)とともに記念写真。スタッフが掲げているのはサイン本。
2004年6月3日
2004年6月3日。左から東浩紀、阿部和重、法月綸太郎。場所はふたたび喬家柵。この中華料理屋は鼎談後の打ち上げの定例会場になっていた。
2004年7月8日
2004年7月8日。深夜。ひたすらまったりとした編集会議。左端の金髪男が佐藤心。
2004年8月11日
2004年8月11日。『雲のむこう、約束の場所』の絵コンテを前に語り合う西島大介(左)と新海誠。
2004年9月19日
2004年9月19日。知的財産権座談会。事務所の前を祭礼の神輿が通り、座談会が一時中止に。
2004年12月9日
2004年12月9日。『美少女ゲームの臨界点+1』の入稿を終え、調布市深大寺の温泉施設へ。作務衣を着て蕎麦を頬張る編集部員。

波状言論について

このcd-romの発行者である「波状言論」は、東浩紀が主宰する批評系サークルの名前です。

波状言論の起源は2000年にまで遡ります。

東浩紀は、1993年より批評誌や文芸誌で執筆活動をはじめ、1998年には単著を出版しましたが、その過程で、既存のメディアの関心領域の狭さや機動性の低さに限界を感じるようになりました。東の関心は思想的な課題とオタク的な想像力が交差するカオティックな領域にありましたが(そのひとつの成果が『動物化するポストモダン』です)、当時はまだ、そのような志向に理解を示すメディアがきわめて稀だったからです。

そこで東は、新しい読者を求めて、印刷媒体からインターネットと自主流通へとその活動の場を拡げていきました。2000年には、初の自主流通著作物を発行し、ウェブマガジン『TINAMIX』の創刊にもかかわりました。同時期には、「hirokiazuma.com」で斎藤環や竹熊健太郎を招いて評論企画を開始し、その成果はのち『網状言論F改』として書籍化されました。また、そのなかで出版業界の状況も変わり、『新現実』や『ファウスト』など、東の関心と重なる編集方針をもつ商業誌も創刊され始めました。

このような経験の蓄積と状況の変化を背景として、東は、2003年の夏、1年間の期間限定で、自主流通の市場と新しい読者に向けた本格的な批評誌を刊行することを決意しました。それが(メールマガジンの)『波状言論』です。

そして、その成功を受けて、2004年の夏、より大規模で持続的な活動を可能にするべく、従来のサークルを再編成して新しい組織が作られました。それが(サークルの)「波状言論」です。

美少女ゲームの臨界点 美少女ゲームの臨界点+1

波状言論は、メールマガジンの『波状言論』の終刊のあとも、主宰の東浩紀のもと、メジャーメディアでは不可能な先鋭的な批評を展開すべく、活動を続けています。波状言論では、現在、このcd-romのほかに、東浩紀が責任編集を担った評論集『美少女ゲームの臨界点』(ISBN:4-9902177-0-5)および『美少女ゲームの臨界点+1』(ISBN:4-9902177-1-3)を発行しています。また、「hirokiazuma.com」が発行したdvd-rom『『動物化するポストモダン』とその後』も、継続的に販売しています。

波状言論の活動について、詳しくは以下のサイトをご覧ください。

波状言論公式サイト→波状言論
波状言論編集部ブログ→波状言論::はてな出張所